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馮志強先生との出会い
1987年6月太極拳訪中学習団の一人として私は初めて中国を訪れ、馮志強先生の待つ早朝の天壇公園へと向かいました。待ち合わせ場所の広場ではすでに馮志強先生を囲んで何やら楽しそう！推手？その瞬間、手合わせした人が馮志強先生に飛ばされました！でも喜んでいます！。この人達飛ばされて喜ぶなんて、どんな人達なんだろう？太極拳は武術だと言う事は知っていましたが、軽々ヒョイッと空中に舞うのを見たのは初めてだったので、私は鳩が豆鉄砲食らった様にあっけに取られていました。後に馮志強先生が掛けた技は「引進落空」「四両撥千金」と言う混元太極の成す技と知るのです。馮志強先生は我々に気付き近寄って来られました。改めてご挨拶。拳礼！。先ほど目にした推手の技をかける人だからきっと野蛮なんだろう、恐る恐るご挨拶し先生のお顔を見たら、優しい笑顔で「歓迎歓迎」と握手をして下さり、その手は優しく柔らかくちっとも怖くなく、むしろとても懐かしさを覚えた事を今でも忘れられません。 馮志強先生の回りにはいつもたくさんの人が集まり、先生の話しを聞き逃すまい、動きを見逃すまいと全身全霊を傾け学んでいる姿を目にして、もしかしたら私はすごい人物に習いに来てしまったのだろうか？と身震いを感じました。 実は恥ずかしい事に、私は馮志強先生が武術会の大家で、世界的にも有名な方とは知らずに中国に連れて来てもらったのです。 馮志強先生の武徳に感銘 世界的に有名な武術家馮志強先生はちっとも偉そうでなく、どんな人にも差別無く親切で親しく接していました。公園を掃除している服務員や自宅マンションのエレベーター係りの人に「謝謝、辛苦了」と背中を撫で労ったり、行きつけのレストランでは厨房に自ら入って行って料理を運んできて従業員を笑わせたり。屈託の無い笑顔や振る舞いはどんな人の心もすぐ暖かくしてしまう本能を感じました。でも太極拳をしている時の先生は虎の様に、鷹の様に、龍の様に、そして風の様で、水の様で本当に自然で活き活きと美しくて引き込まれてしまいました。ある朝、練習を始めようとした時「今日のは初めての練功だよ、一緒にやってごらん」と言って、無言で様々な手の形が変化したものを30分位続けました。真似して付いて行っただけですが、とても気持ち良く空気の中を泳いでいるようですねと私が尋ねると「これは放松功と言う物だよ」その時初めて太極拳の基礎功でもあると言う練功を知りました。毎年北京に通い、混元太極拳と気功を指導して頂くその中で、毎回初めて習うような内容に驚かされました。混元太極拳の奥の深さを改めて知ると同時に馮志強先生の功の深さと徳の高さはやはり凡人ではないと実感しました。 龍になって天空に あれからあっという間に25年の歳月が経ちました。2012年5月5日、馮志強先生が亡くなったと言う知らせを受けるなんて夢にも思わなかった。きっと今世での役割を終えて、来世へ向かったのかも知れません。斎場の空を仰ぐと、煙が龍のように空へ舞い上がって行くのが見えました。 師父！沢山の厳しいご指導、暖かい言葉、手のぬくもり、微笑みをありがとうございました。そして世界中に混元太極の兄弟姐妹が出来た事、私にとって何よりの宝。これからも諸先輩との交流を続け、共に力を合わせて混元太極を引き継ぎ発展出来る様にどうぞ天国から見守っていて下さい。 我が尊敬する太極の父馮志強先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。 馮志強先生追悼文 塩井多恵子 |
